10年間ありがとう

18歳の春、大学生になったばかりの私。
一人暮らしを始めるために必要な物を集めていた。
田舎のおばあちゃんちには、基本的に何でもある。というわけで必要なものを探しに行った。
2回をあさっていた時に出てきた茶碗。柄とかは何でもいいので
「ちょうどいいや」と思って持って行った。
その程度で、その時も、なんだったら昨日まで、正直、特別な思いもなかった。
ただの茶碗。
おばあちゃんちにあった、少し古めかしい普通の茶碗。
でも、一人暮らしを始めたばかりの私には、それで十分だった。
10年以上、この茶碗にご飯を盛った。おつまみを入れることもあった。
大学時代の4年間。
就職してからの6年間。
引っ越しを2回経験し、転職も経験し、様々な出来事があった。
でも、この茶碗だけは変わらず私と一緒だった。
気づけば、私の人生の3分の1以上を共に過ごしていた。
今日、いつものようにご飯を盛ろうとした時、手が滑った。
床に落ちた茶碗は、乾いた音を立てて割れてしまった。
一瞬、時が止まったような気がした。
別に皿を割るのは初めてのことでも何でもない。
たかが茶碗なのに、なんだかとても悲しい。
どうしてこんなに悲しいのだろう。
きっと、この茶碗があるのが、当たり前だったんだろう。
18歳から今まで、本当にありがとう。
あなたのおかげで、毎日美味しくご飯を食べることができました。
これからは、手が滑ることがないように、物をもっと大切にしようと思います。
人生は長いようで短い。
茶碗を割って、野菜をいため、そして食べる。
そんなことをずっとやってきているのだ。

仕方がないから今日は、味噌汁の容器で飯を食う。
なんだか違う気がする。
おかげでみそ汁はコップに入れる。