とりのすけの感想ブログ|本・マンガ・映画・ドラマ

派遣社員とりのすけの「てきとうに生きてる記録」。書評・副業・どうでもいい話など、てきとーに続けられる話をまとめてます。

『アイシールド21』― 凡人が、それでもどう戦うかという話

稲垣理一郎・村田雄介の『アイシールド21』を読み返しました。

アメフトを題材にした少年ジャンプの王道作品なんですが、改めて読むと、これは単純に「スポーツマンガ」では片付けたくないなと思いました。

改めて読んでも、めちゃくちゃ面白かったです。

 

 

※本記事はAmazonアソシエイトプログラムのリンクを含みます。

 

アメコミ感のあるデザインと、わかりやすいキャラ造形

まず絵が強いです。

アメコミっぽい誇張の効いた絵柄で、キャラがひと目で見分けられる。
名前もキャラに合わせて作られていて、初見でも誰が何のポジションで何が得意か、わりとすぐ頭に入ってきます。

アメフトはルールが複雑なスポーツなので、登場人物の役割をパッと掴めること自体が、すでに作品の親切設計だなと思いました。

そして、アメフト初心者でもちゃんと楽しめるように、説明がうまい。
解説役のキャラがいて、試合の流れの中で自然にルールが入ってくるので、「読みながら理解する」が成立しています。

正直なところ、少年漫画らしく無茶な部分もたくさんあります。
そんな身体能力ありえないだろとか、その作戦は現実だと無理だろとか。
でも、それを差し引いても、アメフトというスポーツを「分かりやすく・面白く」伝える漫画として、これ以上の作品は思いつかないです。


チームを少しずつ作っていく構成が、ルール解説と一致してる

この作品が上手いなと思うのは、最初からチームが完成していないところです。

 

最初は2人のチームから始まって、だんだん人数を増やしていく。
新しいメンバーが加わるたびに、戦術の選択肢が増えていきます。

  • パスを投げられる選手が入ったらパス戦術
  • タイトエンドが入ったらブロックとパスの両方
  • キッカーが来たらキックの魅力

という感じで、戦術の地図を少しずつ埋めていく感覚なんです。

これがうまく機能していて、最初から全戦術を見せられていたら、アメフトはルールが多いので、たぶん「ややこしい・難しい・つまらない」になっていたと思います。

 

人数を絞ることで、最初に出来ることは限られる。
その限られたルール内だけで戦う。
そこに新キャラが加わって、できる戦術が一段増える。
それと同時に、読者が覚えるルールも一段増える。

で、チームも強くなって盛り上がる。

 

物語の進行と、ルール解説の進行が一致しているんですよね。
作品としての強さと、競技解説書としての分かりやすさが、同じ仕組みで両立している。
構成として、すごく綺麗だなと思いました。

まあ、痛そうだから自分でやりたいかと言われたら、絶対にやりたくないですけどね。
見ている分には、めちゃくちゃ面白い競技なんですけど。


本当のテーマは「凡人がどう戦うか」

ここからが本題で。

この漫画の本当の魅力は、アメフトを越えて、「凡人」を裏テーマに据えているところだと思っています。

そして、1位にはなれない、それでもどうする?という、競争社会のド真ん中にある問いを、ずっと提示してくる作品です。

 

物語の中ではアメフトは「アメリカのスポーツ」で、日本との間には大きなレベル差が設定されています。
肉体的に、どうしても超えられない壁がある。
長距離マラソンの世界記録のように、努力では辿り着けない領域がある。

 

これは漫画の中では大げさに描かれていますが、現実では、もっと小さなスケールでみんな日々味わっている話だと思うんです。

あの同期にはどう頑張ってもセンスで負けるとか、何時間練習しても先輩のキレに追いつかないとか。
そういう、努力でひっくり返らない差。

その壁を前にして、どう戦うのか。
どう生きるのか。

この漫画はそこを、ちゃんと問いかけてくる気がします。
主人公の小早川セナのチームも、最後は勝ったような、負けたような、独特な余韻のある終わり方をしますし。

どういう努力をするのか、何のために続けるのか。
読んでいて、自分の仕事や生活に対しても、結構考えさせられました。


ヒル魔という処方箋

そして、とにかくヒル魔が良いんです。

主人公チーム・泥門デビルバッツのQBで、トリックプレーや奇策、いわゆる邪道な戦い方で勝ちにいくキャラクター。
肉体ではなく、頭で押し込んでいくタイプです。

王道のヒーローではないし、身体能力も決して上位ではない。
それを、頭でどうにかしてやろうという姿勢。

スポーツは肉体が大事なのに、それが足りない分をどう補うか。
ここに尽きると思うんです。

そして何より大事なのは、絶望していないこと。
普通だったら「俺なんてもう無理」と思うところを、それでも机を叩いて作戦を練り続ける。

その「面白えから」だけで突っ走っている感じが、たまらないんです。

理由が「金になるから」「効率がいいから」じゃない。
ただ「面白えから」。

これって、仕事においても本当はすごく大事な動機だと思っていて。
勝ち負けがハッキリつく場面はともかく、仕事ってわりと「失敗してもいい」場面の方が多いです。
だからこそ、自分に変な言い訳をせず、ちゃんと悔しがって、ちゃんと努力する。

これの繰り返しが、辛くもあり楽しくもある人生を作っているんじゃないか。
そうやって続けた先に、「なんか頑張った、いい人生だったな」と思える瞬間が来るんじゃないか。
ヒル魔を読んでいると、そんなことを考えます。


「あるもんで最強の戦い方をしていくんだよ」

「ヒル魔 名言」で検索すると、いい言葉がたくさん出てきます。
個人的に、一番好きなのはこのセリフです。

www.fb42p1.com

あるもんで最強の戦い方をしていくんだよ

これが、人生のほぼ全部だと思っているんです。

無いものを嘆くんじゃなくて、今手元にあるカードでどう戦うか。
体力がないなら頭を使う。
時間がないなら段取りを磨く。
人脈がないなら、自分から声を出して作る。

足りないものを数えて止まっている時間に、あるもので動き続けた方が、結局先に進める。
当たり前のことなんですけど、忙しい時ほどこの当たり前を忘れます。

このセリフをスマホのメモに入れておくだけでも、わりと人生のリマインダーになってくれます。


どんな人に読んでほしいか

個人的には、アメフトの魅力もそうなんですが、ヒル魔という登場人物の魅力に、もっとスポットが当たってほしい作品です。

特に読んでほしいのは、こんな人。

  • 一度どこかで挫折した大人
  • なんとなく頑張り切れていない、不完全燃焼を感じている大人
  • 楽しくもなく、つらくもなく、このままでいいのかなと思っている大人
  • 何かに負けて、まだ悔しさを引きずっている人
  • 自分の能力なんて大したことないと、心のどこかで思っている人

そういう、ちょっとネガティブな気持ちを抱えて生きている人ほど、この漫画は刺さると思います。

グダグダ悩んでも何も変わらない。
今あるものを、今できることに、全力で使うだけ。

これが、アメフトという競技を入り口にしたこの漫画の、いちばん深いところにある裏テーマだと思っています。